救急救命士の現実 パラメディック119~すべては救命のために~

パラメディック119-すべては救命のために-

消防署の風景 No.3

パラメディック119消防署の風景この町の先生になろうって人は… up data 2009.8.13

この町の先生になろうって人は…

 衆議院解散に伴い8月30日の総選挙、この夏の決戦に各党、各候補者たちの活動が日夜報道されています。通勤途中の駅前や路上でも候補者たちが一生懸命支持を訴えている姿があちこちで見られます。私も一人の有権者として投票し、国民の代表者として選ばれた先生たちにはより良い世の中にするために頑張っていただきたいと思うしだいです。この真夏の暑い中、街頭に立ち演説する候補者たちは本当にたいへんでしょう。そういえばあったなぁ、この前の総選挙だったかな?それとも参議院選挙だったかな…?

 待機中の消防署、珍しく机に座って仕事をしている救急隊に係長からこんなお話がありました。
係長「救急隊長、それからみんなもちょっと聞いてくれる?」
隊長「はい」
係長「昨日、救急車のサイレンについて消防署に苦情の電話が入ったんだ」
隊長「はぁ…そうですか、サイレンがうるさいって事ですね、私たちも深夜や住宅街などはサイレンの吹鳴には配慮していますがね…鳴らさない訳にはいきませんからね」
係長「いや…それが深夜だからとか住宅街だからとかそう言うのじゃないんだよ」
隊長「はあ、と言うと?」
係長「それが…選挙の立候補者だと名乗る人なんだけど、何でも街頭で演説をしている最中に救急車が大きなサイレンを鳴らして通り過ぎたって言うんだよ。演説が聞こえなくなってしまう、これは選挙妨害だ、公務は分かるけど少しは考えろって、そういう話なんだよ…」
隊長「その立候補者って言うのは?」
係長「いや、匿名での要望ってことだった」
隊長「それって本当に立候補者なのでしょうかね?これから国民のために仕事をしようって人がそんな事は言わないでしょう?」
係長「さあ、匿名だから何とも言えないけどね、まあ住民の方からそういう苦情、要望があったってことを心に留めて活動してくれよ」
隊長「…はい、分かりました」

 消防署の食堂、やっと帰署できた救急隊はすっかり冷めてしまった夕食をレンジで温め食べていました。
隊員「昼間の話、本当なんですかね?」
隊長「立候補者からの要望って話?」
機関員「立候補者をかたった人でしょ?あちこちで選挙活動しているし、政治家を名乗れば消防署もびびるだろうなんて…そんなところでしょ」
隊員「もし本当に先生になろうって人からの苦情だったらガッカリですね…」
機関員「あなたの大事な支持者を搬送している最中ですけど…なんて言いたくなっちゃうよな?」
隊長「この時期の候補者はそれほど暇じゃないよ、政治家をかたった人からだって」
隊員「きっとそうでしょうけど…、仮にこの話が本当だとして、街頭演説をするような場所って駅前とか大きな交差点とか、人通りの多いところでしょうから、むしろしっかりサイレンを鳴らして走行しないといけない場所ですよね?」
機関員「ああ、人が多いところだからこそ尚更、サイレンをしっかり鳴らして広報をして、安全のためには絶対必要だよ、サイレン吹鳴に配慮するなんて無理な場所ってことだ」
隊員「さらに仮の話ですけど、これが匿名ではなく本当にどこかの先生からの要望だったら大騒ぎでしょうね」
隊長「ああ、そりゃもう上の人はみんな大騒ぎだよ」
機関員「はぁぁ…オレたちはこんな風に食事だって定時に摂れないで一生懸命働いているって言うのに、サイレンがうるさいって言われて…どうすりゃ良いんだろうな?」
隊員「本当…今度の選挙でオレたちがもっと伸び伸びと活動ができるようにってがんばってくれる人に投票しないといけないですね」
機関員「そうだなぁ…、それって誰?」
隊員「…さぁ?」

 消防署にサイレンに関する住民の方からの要望や苦情が寄せられることがあります。中でも多いのは救急車のサイレンに伴うものです。消防署の数ある緊急車両の中でも、緊急走行している距離、時間ともにぶっちぎりですから当然なのかもしれません。私たちも深夜や細い路地、静まり返った住宅街などではサイレン吹鳴に配慮し、まわりの人になるべく迷惑にならないようにと気を使ってはいるのですが、鳴らさない訳にはいかないのです。

 緊急車両のサイレン吹鳴は法律で決まっているから、人命救助のためだから、でも日夜サイレンの音に悩まされる住民がいるのもまた事実です。ただのわがままとしか思えない要望がある一方で、切実でごもっともな要望があるのもまた事実です。住民のためにと現場で働く私たちですが、私たちの活動がまた住民を苦しめています。…はぁぁ答えが見つからない、どうすりゃいいの?今回のお話、政治家をかたる人からの苦情であったと私も思いますが、住民のためにまさに今働いている救急隊に、これから住民に選ばれ国民のために働こうとしている先生がクレームを付けてきたのなら…やっぱりそれはガッカリです。

 30日の選挙、私も必ず投票に行きます。個人的には今の救急医療体制をどうにかするために尽力してくれる方を応援したいと思います。

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