救急救命士の現実 パラメディック119~すべては救命のために~

パラメディック119-すべては救命のために-

消防署の風景 No.2

パラメディック119消防署の風景消防署に何故かあるもの up data 2008.12.12

消防署に何故かあるもの

 消防署は24時間、同じ隊の仲間と寝食を共にするちょっと特殊な職場環境にあります。警防職の消防官は交代制で勤める訳ですから、3交代制なら単純に年間の1/3は職場の仲間と消防署っていう狭い空間で一緒に過ごす訳です。消防署の仲間は第2家族と言っても過言ではないでしょう。当然、24時間もいれば一緒に食事もするし、同じ寝室で眠ります。それなら消防署にあったってちっともおかしくない物ですが、こんな使い方がされているなんてみなさんはご存知でしょうか?

 消防車、救急車、2台の緊急車両が消防署の車庫に戻ってきました。
救急隊員「オーライ!オーライ!ストーップ!」
消防隊長「お疲れさん!」
消防隊員「お疲れ様でした」
救急隊員「お疲れ様でした」
消防隊と救急隊の同時出場、意識も呼吸もないという方の下へと出場してきた帰りです。救急現場への消防隊の同時出場では、消防隊は救急隊の活動のサポートを行い、救急隊は医療機関へ搬送する訳ですから同時に帰ってくるなんてことはありません。出場しなかった別の隊の新人消防士が車庫に走ってきました。
新人「お疲れ様でした、これ持ってきましたよ!」
消防隊長「おう!気が利くじゃないか、サンキュ!」
新人「はい、背中にも」
救急隊長「こっちも頼むよ」
新人「はい、振りますよ」
救急機関員「ありがとう、救急車にも振っておいてくれよ」
新人「分かりました」

 24時間共に過ごす第2家族の場所、消防署で新人が気を利かせることはとても大切です、私はよく気が利かないと怒られていましたが…。それにしても配属してまだたった数ヶ月の新人がこんなことに気が利くと言うのだから…。
救急隊員「消防士ってのは人命救助するものだと思っていただろ?」
新人「ええ」
救急隊員「やっぱり危機一髪のところを助け出すカッコいい仕事だと思った?」
新人「ええまあ」
救急隊員「それも本当だけど、やっぱり現実はそんなの一握りだよな、消防署の車庫でこんなことしているって思わなかっただろ?」
新人「思いませんでしたよ」
救急隊員「オレも思わなかった…、続きませんようにって願掛けだよな」
新人「ですね、あんまり効果はなさそうだけど」
救急隊員「そうだね、それでもオレにも頼むよ」
新人「はい、背中に振りますよ」

 意識も呼吸もない方は私たちが駆けつけた時、すでに全身に硬直が及び全身に死斑が出ている状態でした。本来、死亡の確認は医師でしか行えないのですが、社会通念上、一般常識的に「死」と判断できる状態であったため警察官に申し送り、消防隊と救急隊は同時に引き揚げてきたのでした。気が利く新人消防士が持ってきたのは塩、お清めの塩です。どこの消防署の車庫や通信室にも小さな容器に入った塩が用意されています。無線を聞いていた新人は傷病者が亡くなっていたことを聞いて、塩を用意して私たちの帰りを待っていたのでした。生のために、人命救助のためにいる私たち消防官、でもそれは裏返せば死に直面するということ。どんな仕事も数多くの失敗や課題の繰り返しがキラリと光る成功を支えているように、私たちの仕事も劇的な人命救助は一握り、日常は死との直面の繰り返しです。新人だってこんな現実にも数ヶ月で慣れてしまう、いや、慣れないとやっていられない。

 また消防署に出場ベルが鳴り響きました。
救急隊員「ああぁぁ…」
新人「お清めをしておしまいですね」
救急隊員「本当、事務室に上がることもできないよ…、これさっきの出場の記録表、机に上げておいて」
新人「分かりました、お疲れ様です」
出場指令が鳴り響きます。「消防隊、救急隊出場、○町○丁目男性は呼びかけに反応がないとの事」
救急機関員「休憩する時間もありゃしないぜまったく!」
消防隊、救急隊の機関員が地図を持って走ってきました。このお清めが効いていますように、今度こそ生の現場でありますように。

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